芳名録について 

 「北の大蔵」新築にあたって、たくさんの温かいご支援を頂戴いたしました。
ご寄付いただいた皆様のお名前は芳名録に記載し、「北の大蔵」に収蔵する予定です。
芳名録は他の所蔵品と同様に、蔵の中で永久に守り伝えてまいります。 


芳名録を作る 

 その芳名録の作成についても、冷泉家時雨亭文庫ならではのものとなるよう、こだわりました。 


材料

基底材(紙)には、染色した黒谷和紙を採用しました。黒谷和紙は、京都府綾部市黒谷町・八代町と、その周辺地域で作られた紙です。

良質な楮(こうぞ)を原材料として、職人により「手漉き(てすき)」で、一枚一枚が丁寧に作られます。黒谷和紙は丈夫で強く、長持ちするのが特長です。

美しい色は、染色家・故吉岡常雄[よしおかつねお・大正5年-昭和63年(1916-1988)]氏により、染め上げられたものです。天然の染料を使用した草木染で、藍=印度藍、紫=紫根、茶=檜、黄=黄檗、紅=紅花で染色されています。

染色した和紙

罫線枠

冷泉家には、多くの古写本が所蔵されることをご存知の方は多いでしょう。そのほとんどは、歴代の当主や家人が勉強のため、または文学の継承のために自ら筆をとって書き伝えてきたものです。

では、大学ノートのように罫線を引いて製本された紙の束が無い時代、どのようにして文字を大量にまっすぐに書いていたのでしょうか。

その答えは、蔵の中に眠っていました。収蔵品の中に、「罫線枠」と言うものがあります。これは、第14代の冷泉為久(ためひさ)以来の道具で、紙や薄い木、糸などで枠を作り、それを用紙の上にあてて枠内に文字を書くというものです。表紙には、表紙の題箋を貼る位置に合わせた罫線枠を、本文には本文用のレイアウトにあわせた罫線枠がいくつも残っています。

罫線枠と罫線枠を使用して書かれた表紙
罫線枠を用紙にあてる

今回は、冷泉家に伝わるこの伝統的な手法に倣って罫線枠を復元し、使用しました。
罫線枠を実際に使用してみると、糸の位置や枠の作り方でいくらでも応用が利き、例えば墨で汚したとしても作り変えることが容易な、大変に効率の良いものでした。

罫線枠(上:江戸時代、下:現代の復元)
復元罫線枠

装丁

和紙を裁断し、表紙を付けて和綴じにします。

収蔵品の中には、書写や製本、裏打ちなどの簡易な修理のための材料、道具類が数多く残っております。そこからは歴代の当主や家人が、試行錯誤しながら典籍を伝えてきた様子がうかがえます。表紙用のさまざまな文様を刷った美麗な紙もありました。まさに和歌の教授として家を伝えてきた冷泉家ならではの品々です。

制作中の芳名録
制作中

名録作成を通じて、所蔵品が示す書写の方法に向き合い、その伝統的な方法を復元することが出来ました。
このようにして、家に伝わる様々なことを、今を生きている文化として継承していくことが重要であると考えています。