冷泉家時雨亭文庫だより
第十三歌秋萩の 咲き散る野辺の 夕露にぬれつつ来ませ 夜は更くるとも
第十二歌雲間より 星合ひの空を 見わたせば しづ心なき あまの川浪
第十一歌風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける
第十歌小山田に 引くしめなはの うちはへて朽ちやしぬらむ 五月雨のころ
第九歌大井川 かがりさしゆく 鵜飼船幾瀬に夏の 夜を明かすらむ
第八歌うちしめり 菖蒲ぞかをる ほととぎす鳴くや五月の 雨の夕暮れ
第七歌卯の花の むらむら咲ける 垣根をば雲間の月の かげかとぞみる
第六歌見渡せば 柳桜を こきまぜて都ぞ春の 錦なりける
第五歌三千年に なるてふ桃の 花咲けり 折りてかざさむ 君がたぐひに
第四歌梅が枝に 鳴きてうつろふ 鶯の羽白妙に 淡雪ぞ降る
第三歌へだてゆく 世々のおもかげ かきくらし雪とふりぬる 年の暮れかな
第二歌奥山に もみぢふみ分け 鳴く鹿の声聞く時ぞ 秋は悲しき
第一歌白露に 風の吹きしく 秋の野は貫きとめぬ 玉ぞ散りける