文化財保護のための研修会~福岡・香椎宮にて~
令和5年4月下旬、全国国宝重要文化財所有者連盟(全文連)の研修会に参加しました。
ここで以前にも扱いましたが、全文連は文化財の所有者による団体です。
昭和52年9月全国の文化財所有者の有志により今日の「全文連」の基礎となる「全国重要文化財所有者等連絡協議会」が発足、平成4年5月に社団法人「全文連」として認可され、平成24年4月には公益社団法人「全文連」となりました。
以来全文連は文化庁をはじめ関係機関と文化財保護にかかる諸課題を協議するとともに、文化財保護のため国の機関に働きかける活動をしています。
ここでは毎年、文化財保護の知識を深めるため修理中の文化財建物についての研修会が開催されており、当財団からも積極的に参加しています。
今年の開催場所は福岡県福岡市に所在する香椎宮です。
香椎宮の起源は仲哀天皇9年(200)にまで遡り、仲哀天皇の神霊を祀るために神功皇后が祠(宮)を建てたことが、その始まりとされています。
香椎宮見学に先立ち、近隣の施設「なみきスクエア」にて講演を聞き、文化財保存について学びます。開会式は全文連理事長や香椎宮宮司、来賓の方々のご挨拶からはじまりました。
次に、文化財保存の専門家による講演がありました。
1つめの講演のテーマは、文化庁の担当者による「壁画の保存と修理」。壁画保存に関する基礎的なお話を伺いました。
特に、「文化財をとりまく環境変化を見逃さないためには、日々の観察や清掃が何よりも重要」とのご指摘は、我々所有者にとっては耳の痛いところです。
当財団では、重要文化財に指定されている建物の中で日常を過ごしていますので、つい見慣れて見過ごしていることもあろうかと思います。今回のお話を伺って、改めて身の引き締まる思いでした。
次はいよいよ香椎宮の修理についての講演です。
香椎宮の現在の本殿は、福岡藩主黒田長順によって享和元年(1801)に再建されたものです。
本殿は、「香椎造り」と呼ばれる独特の構造をしています。
長い歴史の中で度々修理を重ねてきた本殿ですが、今回は屋根葺き替えや塗装、部分修理などが施工されました。
屋根の檜皮葺や、漆塗・彩色・金具などの修理の様子や、修理の過程での発見などのお話を聞いて、いよいよ見学に向かいます。
香椎宮本殿は、工事のため素屋根がかかっています。
ヘルメットを被って、修理の現場を見学します(残念ながら、写真撮影は禁止でした)。現場では、工事の足場が組まれ、まさに工事中と言った様子です。内部は塗装中のため、漆の匂いが充満していました。
香椎宮境内の宝物殿や勅使をお迎えする勅祭社などを見学し、研修は無事に終了しました。
歴史ある神社の境内をゆっくりと拝見し、文化継承の重要性を強く感じた一日となりました。
最後に一つ、香椎宮のご神木についてご紹介しておきます。
香椎宮の楼門をくぐってすぐ目の前に、巨大な老木がそびえています。「御神木 綾杉」です。
これは、神功皇后が「永遠に本朝を鎮護すべし」と祈りを込めて植えられたものです。
記録によると、火災や台風で何度も被災していますが、その度に新しい芽が出て今まで残ってきたと言われています。
葉が綾の様に交互に生えているので綾杉といわれ、国家鎮護の象徴として古来よりその杉葉は宮中に献上されています。
綾杉への信仰は広く、和歌にも多く詠まれています。
千早振る(ちはやふる) 香椎の宮の あや杉は 神のみそきに たてる成(なり)けり
(読み人知らず 新古今和歌集)
この記事を書いた人
野村渚
学芸課長 第24代当主為任・布美子の次女久実子の次女。
専門は日本画と文化財保存修復。
子供の頃からの耳年増で、なんとか日々をしのいでいます。