文庫だより為人愚記・第三話

為人愚記
第三話

昨今、書斎のデスクでは、フォートナム&メイソンのオーガニック・ダージリンを飲んでいる。百貨店で購入したちょっと上等の紅茶。藤原俊成、定家を祖のひとりとする元公家の家の当主だが、日本茶ばかりを飲んでいるわけではない。この紅茶は、ヒマラヤ山脈のあたりで育てられたもので、濃厚な味わいがデスクワークに最適なのだ。もっとも、茶葉を入れるのは家にある急須で、番茶や緑茶と同じ扱い。
茶というのは世界中に広がる文化のひとつで、「チャ」や「ティ(テ)」は世界共通の言葉にもなっている。各地でその茶葉や淹れ方は千差万別のようだが、不思議なことに同じ淹れ方でも淹れる人間によって味が変わる。同じ茶葉を、同じ急須で、同じ器に入れているのに、その味わいは随分違う。人間の手業(てわざ)というのは、誠に精妙なものだと思う。今どきの人は、皆ペットボトルの飲料をお飲みになっているようで、私はそのような人々を密かに「ペットボトル人間」と呼んでいる。老人の嫌味な名付けではあるが、少し手間をかけて器で飲めば、余計なゴミも出ず地球環境にもよろしく、淹れ方や淹れる人で変わるさまざまな味わいを楽しむことができるのだけれど・・・、などと思いながら、今日もまた書斎でダージリンをいただいている。


プロフィール

冷泉為人

財団法人冷泉家時雨亭文庫理事長 第25代当主。
1984年に冷泉家の末裔である貴実子さんと結婚、婿養子に入る。
どんなに困っていても千年のプライドがあって人にものを頼むことができない冷泉家の人を知った時に「ホンマ、えらいとこに養子に来てしもうたと何度も思いましたわ」と語っている。

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