竣工から早2年
令和2年(2020)の竣工から早2年が経ち、建造は壁の中塗りの段階まで進みました。
中塗り
中塗りは漆喰壁の強度を作る重要な工程。
こてを使い少しずつ土を塗り重ねて、厚みを出していきます。
一言で、「壁を塗る」と言っても、ただ土を重ねているだけではありません。
壁土の中には、建物の構造を作る木材や、竹材をはじめ、振動や地震時のねじれに対抗するための補強材など様々なものが入っています。
土壁の中身
漆喰壁の中には、横方向に「貫(ぬき)」と呼ばれる太い木製の構造材が入っています。この貫と貫の間に、荒縄などで細かく編んだ竹で垣根のようなもの(これを木舞(こまい)という)を作り、その隙間を下塗り用の荒土で埋めます。こうすることで、竹や縄の隙間にしっかりと土が回り込み、乾くと剥がれることのない強靭な下地が出来ます。
しかし貫の部分では、壁土の食い込みが悪くなります。それを解消するために、まずは漆喰で貫の木材を薄くコーティングします。これにより、塗り重ねる壁土の食いつきが良くなり、防水の役割も果たします。さらに寒冷紗(かんれいしゃ・かつては蚊帳が使われていた)を貫の表面に貼ったり、麻を細かく裂いて繊維状にし、先端に釘をつけた「長髭子(ながひげこ)」と呼ばれるものを、貫に打ち込んだりしてから、本格的に壁土を塗り込めます。この作業によって、貫に使用した木材と壁土という、異なる材料による収縮率の差を軽減することで、割れにくく強い壁を作ります。
この工程は「貫伏(ぬきふせ)」と言い、古くから行われている伝統的な技法です。
強靭な壁をつくるために土を層状に塗り重ねていく中で、場所によっては寒冷紗を塗り込めます。寒冷紗の繊維が下の層や周囲としっかりとつながり、丈夫な土壁になります。
このほかに、柱や梁に接する部分には、壁が乾いたり、柱が乾燥して縮んだときに発生する隙間に備えて、長髭子を短くした髭子を一定の間隔で打ち込んで、土を塗り込みます。こうして仕上げられた壁は、柱や梁、などと柔軟さを持って組み合い、構造材として十分な役を果たせるほど強固になるのです。
土壁の内部には、土や木、竹などの構造材に加えて縄や紐、布などを用いることで、地震や火事、雨風など、ありとあらゆる状況、環境下に備えた対策が講じられているのです。その対策とは、僅かな隙間やひび割れ発生の可能性を見逃さない、職人の厳しいまなざしと細かな気遣いに他ならないのではないでしょうか。
ひとつ前の記事はこちら
この記事を書いた人
野村渚
学芸課長 第24代当主為任・布美子の次女久実子の次女。
この4月から勤務し始めたひよっ子。
子供の頃からの耳年増で、なんとか日々をしのいでいます。